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全文をそのまま掲載するのは問題がありそうなので箇条書きで抜粋。「」内(強調部分)は本文ママ。
ちなみにこのインタビューの頃にはまだなるたるは3巻までしか出ていなかった。
インタビュー:渡辺彰規
協力:井口尊仁(digitao)
Q.漫画を描き始めたきっかけなど
- きっかけはコマの動きがかっこいいもの─貝塚ひろしの漫画─を見ちゃったから。
でもそれはちらっと眺めただけで単行本を買ったりなどはしていない。 - 一番最初の投稿は高一の頃、少年サンデーに。
松本零士に影響を受けた二次大戦の戦闘機もの。
2次とかその辺で落ちてたと思う。 - (落選してショックだったか?、に対して)
「ああ、もうその頃は自信の固まりですからね。でもそのくらいの年齢ってそうだと思うんすけど。自分は天才だぜ〜みたいな感じですよね。やっぱりバカです。」 - 大学は工業系へ。
- 最終的な目標は小沢さとる。貝塚ひろしをちらっと見て漫画を描き始めて、教科書として引っ張ってきたのが「青の6号」。
小学校の後半〜中学まで影響され、それから松本零士が時代の流れで被さってきた。
「青の6号」ビデオでやられた時に「しまった」と思った。 - (青の6号が今また再販されて売っているじゃないですか、に対して)
「最初の『青の6号』、ストーリー的には全然破綻しているんですけど。昔の漫画は破綻してないほうが珍しいですけど。かっこよさだけはピカ一だったと思いますけどね。高校の頃は結構斜に構えてましたね。サンデーに投稿してるんだけど、読んでるのは坂口尚だとか福山庸治だとか、そういう漫画でした。ただ、完璧にその方向を目指してるわけじゃないんですよね。」
Q.「ヴァンデミエール」ができた経緯
- お題が「アンドロイド」の創作アンソロジー同人誌を作ると友人が言い出し、その際にお前も描けと言われて考えたのが「ヴァンデミエール」。
言い出しっぺの友人は腰が重く自分は描かなかったのでアフタヌーンの投稿用に回した。
「だから、その本が出来てたら今の自分はなかったっていう話ですね(笑)。怠慢のおかげで助けられたっていう人生、よく分かりませんけどね。」 - ヴァンデミエールはその時に他にも色んな話を考えたうちの一つ。
ベースはブラッドベリの「何かが道をやってくる」(町に奇術団がやってきて、町の人たちの時間を切り取って行っちゃうというような話) と、昔あった「サントリーロイヤル」かなんかのCFが強烈に残っていて、その二つを引っ張ってきた。
今まで他からネタを引っ張ってきて物語を構成するのはやった事がなかった。同人誌だからいいだろうと思った。
この一本は自分としては珍しい作り方だった。
Q.なるたるについて
- (なるたるは老練になった、それは考えていたのか、に対して)
もうちょっと咀嚼したやり方にしようと思っていた。結局あまり出来ていない気がする。 - (なるたるは話を決めてから?キャラを決めてから?に対して)
「先にキャラ表を」みたいな事を言われた。
「多分『ヴァンデミエール』のやり方見ててこいつほんとにキャラクター愛してるのかな?って思われたのかもしれないんですけど。」 - (シイナという割と明るい系のキャラができたのはどこらへん?に対して)
なにかきっかけがあったとは思うけど、よく分からない。
ただ最初に考えていたキャラクターはほとんどあの中には残っていない。
最初に考えていたのは、何か言われたらすぐ死んじゃいかねないようなめちゃくちゃ暗い娘。
「そこらへんで1話目はギャグにしちゃおうという構造が浮かんでいたのかもしれません。そのためにあのキャラクターにしたのかも。……酷い話ですけど。」 - (なるたるは最終話まで頭にあるのか、に対して)
「途中の展開は今、パズル作業なんで、全部決まってるとは言い難いんですけど。基本的な骨格は決まっていて、最終回はできてます。」 - (どれくらい続くのか、に対して)
感覚的に、長編漫画は10巻以上続いたら駄目だと思っている。
一番いい語りの手法は映画。
始まりがあってそれに対応するラストがある。伏線だったりどんでん返しだったりそういうのをやるためにはやはり尺の限度があるかなと。 - (当分終わりそうにない感じが、に対して)
もうちょっと早く進んでいるはずだった。 - (10巻は超えない?、に対して)
「それは目指しているんですけどね。最初はそのくらいの予定だったんですけど、今のところよくわかりません。でもこの場で語らせたら30分で終わりです(笑)」 - (可能性として変わるってのは結構聞きますよね、に対して)
それは多分作り方がちょっと違うのかも。
比較的物事の考え方が理系というか機械屋的な考え方をするので、下に法則を引いておいてその上に乗せるやり方をする。
そうすると何ができるか何ができないかが決まってくる。だから途中で変えてしまうと通用しなくなる。
既にその下に引いていあるものは決まっているけど、明かしていないだけ。
しないのかできないか問わないとして、あんまり作家さんはそういう作り方をしないのでは。 - (シイナの名前は西武池袋線の椎名町とは関係ない?、に対して)
関係ない。
合理的なところから名前が決まっている。名字はそんなに合理的ではないが。 - (「玉依」という名字も関係が?に対して)
名字は遊び。だが「シイナ」という名前に関してはこれから効いてくる。
この名前じゃないと成立しない話。
「別に椎名へきるのファンとかそういう話じゃ全然ないです(笑)もっと絶対ないと思いますけど鮎川誠のファンだったとかそういうこともないです。」
(ネタが古すぎる(笑)、と突っ込み)
Q.「辰奈1905」について
- (辰奈のきっかけは?)
(当時ジャストシステムにいた井口プロデューサーがヴァンデミエールを読んで、コンタクトをとり…)熱く洗脳された。
(井口氏:デジタルでやろうという事に夢を盛り込んだんだけど、鬼頭さんは現実的だから描ける描けないできるできないという方向で考える。)
まず一回目に井口さんのところに出向いた時にCD-ROMでやると言われて大丈夫かいなとマジで思った。
どのくらい流通しているものか知らなかったし、ただ井口さんが熱かった。 - (熱意にほだされて?という問いに)
イヤと言えない雰囲気が出来上がっているなという感じ。
あと場がなんであろうと与えてもらえるものは全部掴むしかないという感じだった。 - (やってやろうじゃないっていう感じ?という問いに)
「やらせていただけるなら(笑)。」 - (ロボットというのは鬼頭さんじゃなく企画の方から上がってきたという感じで)
(井口氏:ちょうど「エヴァ」がもてはやされていた時期で僕はすごく浸りつつも、いやこうじゃないのもあるじゃないかという気持ちがあった。)
もっと泥臭いやつですね。
(井口氏:ビームサーベルでぶった切るような感じではなく、わりとちゃんと機械の構造とか、戦車に歩兵が協力しあってるとか、燃料補給してるとかそういう類の事がやりたい) - (今までのロボットアクションに飽きて)
(井口氏:ロボットアクションじゃなくてロボット。町工場のおやじがロボットを作りながら苦労するという話をやろうとしてたらホンダの二足歩行ロボットP2が出てきて、こりゃまずいと)
最初の井口さん案をそのまま行くと本田宗一郎が若いときにロボットを作るような漫画になったろうと思うけど、それは面白いか?って - (今までのロボットのアンチテーゼをやりたかったけど、P2が出たのでちょっとまずいなというところで)
(井口氏:舞台を100年前にするのは誰が言い出したか覚えていない) - いろんな要素を入れられる可能性はあったと思う。けどアクションものはアクションものでいいと思っていた。その方が広く売りになるから。
ただ便利なロボットに対するアンチテーゼ、僕がやっぱり機械屋だったというのもあって。
アニメに出てくるロボットと工業方面のロボットとは全く別物。腕一本だけだったりそれが動いて溶接する方のがロボットだというイメージがある。 - (ほぼやり終えたところですがどうですか?に対して)
「自分の持っていない才能を持ってる人達が集まってたんで、楽しかったですよね。」
20年がかりの壮大な計画がある
- 「……すっげー、ぶっちゃけた話で、計画があるんですよ、漫画の。
世界観の下敷きを作っておきたいんですよ。それをやるのは20年だと思ってるんですけど。
それは1本の作品だけじゃなくっていろんなのを使ってやるんですよ。
ある単元についてはこれで説明して、利用してる下敷きっていうか物理法則っていうのか、世界の法則は一緒なんですけど。
それの一部分を切り出してくることによって、別な見え方をするっていうふうに作っておいて漫画をつくるんですよ。
で、その全ての漫画を当てはめると一つの絵になるっていう。
今のところそれをやりたいなって思ってるんですけど出来るかどうかは分かりません。
突然仕事が無くなるかもしれないし、こちらの意図したものと違う不本意なものしか描けなくなることもあると思うんで、実際どうなるか分かりませんけど。」 - (20年というのは20年かけてそれをやりたい?に対して)
かかるんじゃないかなって感じ。
残念ながら辰奈はそこから外れている。 - (なるたるは外れていない?)
「繋がってます。」 - (それはヴァンデミエールの頃からの野望?に対して)
はい。途中ぐらいから。最初は単発だったのでその後くらいから。 - (例えば20年後に鬼頭莫宏作品集をダーッと読むと…に対して)
「世界として繋がってくれればいいな、という感じですかね。」 - (頭の中に年表みたいなのがあって、ここが「ヴァンデミエール」、この辺が「なるたる」みたいに…、に対して)
そうやっていうと誤解されるか。
「アウトロースター」と「エンジェルリンクス」、「クラッシャージョウ」と「ダーティーペア」の世界のような繋がりではない。
世界の構造…例えば全世界の認識がニュートン力学に則ってたり、一番ちっちゃな単位がプランク定数だったり…とかいう方。
トンデモ科学で構造を作っておいて、この構造に則れば変な存在がいてもいいんだという。
映画について
- 「究極的に目指しているのは映画なのかもしれないですけど。
それはフレームの切り取り方、カメラアングル、脚本、音楽。多分一番作品を作って示したい形態。
時間と空間を一番制御しやすいって方が正解なんですかね。それさえも神様でありたいってことかな。
おそらく表現形態の中で一番神様的な振る舞いをしてるのは映画じゃないかなと思うんですけど。
2時間強引に拘束しちゃうわけですからね。」 - (井口氏:わりと辰奈製作初期でああいう東北の寒村見た時に、これを海外に向けたら面白いと思った)
「それが狙いですもんね。」
(井口氏:それで反響があるとこっちもやり甲斐がある) - (20年間は忙しそうじゃないですか、に対して)
- 「わかりませんけどねー。」
以上。